コメント付き論文リスト

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人生で初めて書いた論文。まさか自分が論文を書く人間になるとは思いもしなかった。

研究のきっかけ --- 学部4年の2月、修士入学を目前に控えた時期に、修士からの指導教員となる小森靖先生のもとで研究の雰囲気を掴むため、第1回青葉山ゼータ研究集会に連れて行ってもらった(学部時代の担当教員は神保道夫先生で、今思うと本当にすごい方にご指導いただけて幸運だった)。その場で「今ここで修士論文のテーマを決めろ」と言われ、当時東北大修士2年の桜田さんが講演していた「多重ゼータ値の有限類似」を咄嗟に挙げたことから、この研究がスタートした。

研究の過程 --- 講演後に桜田さんから修士論文をもらい、有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値の世界に毎日没頭した。その中で「青木-大野関係式の対称多重ゼータ値版の証明が未解決」と書かれていることに気づき、有限多重ゼータ値版はすでに証明されていたことからヒントを得て研究を始めた。修士1年の5月頃のことだったと思う。小森先生とはほぼ毎日議論させていただき(ゼミの有無に関係なく、廊下ですれ違うたびに付き合ってくださった)、8月頃に証明が完成した。

成果 --- 青木-大野関係式だけでなく、和公式や height-one duality(これは桜田さんの結果!)を含む、より一般的な形での証明に成功した。修士論文の主要結果を半年で出せたのは非常に良かったと思う。その後、小森先生から「論文にしてみない?」と声をかけていただき、修士論文の執筆より先に論文の執筆に取りかかることになった。

最後の決め手は「トイレのレバー」だった

背景 --- 修士論文が早く仕上がったため、もう一つ何かできないかと思い取り組み始めた研究。重み付き和公式のA類似はすでに鎌野さんによって証明されており、有限多重ゼータ値を積分で巧みに表現する手法が用いられていた。

苦戦と転機 --- 当時、対称多重ゼータ値の積分表示は知られておらず、別の方法で証明を試みたがなかなかうまくいかなかった。転機となったのは広瀬さんによる精密化対称多重ゼータ値の論文で、これにより研究が大きく進展した。

証明完成の瞬間 --- 最後の鍵は「積分の経路を行って戻る形に書き換える」というアイデアだった。関さんが「トイレでアイデアが浮かぶことはよくある」と言っていたが、まさにその通りで、実家でトイレのレバーを回した時に、ユルユルのレバーが一度回転した後に逆方向に戻ってからまた元に戻る動きを見て、積分の経路も同じように書き換えればよいのではと思いついた。実際にやってみると、うまくいった。

初めての単著論文である。

動機 --- これまでの論文はゼミの中で壁打ちしながら作り上げた共著論文だった。博士には進まず修士で社会に出ることになったが、数学をやめるつもりは全くなかった。数学者として認めてもらうために何が必要かを考えた時、「単著論文を出す」ことが一つの答えだと思い、取り組み始めた。

社会人との両立 --- 学生時代とは状況が一変し、仕事をしながら結婚もして、研究に充てられる時間は本当にεになった。逆にトイレ、お風呂、お昼休みなどの隙間時間で少しずつ考える習慣が身についたのは良かったかもしれない。途中の命題の式が対称的で非常に綺麗な形になったのがお気に入りである。

夢の中での証明 --- 証明の最終段階(あと一つの式さえ示せば完成という状態)で、毎日夢の中でも考え続けていた。ある日、夢の中で誰かに「もっとシンプルに考えて、この方法じゃないよ」と言われ、計算してみると証明できた気がした。起きて確認すると、実際に証明できていた。大野先生と同じエウレカの瞬間である。なんとこの日は29歳の誕生日。最高の誕生日プレゼントになった。

その後 --- すぐに論文にまとめ、初めてarXivにも投稿した。査読付き論文としても速やかに受理され、嬉しかった。証明している最中はあまり気にしていなかったが、よくよく考えるとこの論文の主定理は広瀬さん・斎藤さん・村原さんというこの分野のトップ数学者たちの予想の解決だった。関さんに「君はその予想を解いたんだ」と言われた時、胸が熱くなった。